進撃の巨人ししゃも的考察ブログ

既読者向けです。進撃の巨人を読んだ感想をまとめていきます。Twitter:@shisyamosk

僕達がライナーを殺したのは…

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[第77話 彼らが見た世界 単行本19巻より]

 

「…交渉…」

「できる余地なんて無かった…」

 

「え?」

 

「何せ僕達は圧倒的に情報が不足してる側だし」

「巨人化できる人間を捕まえて拘束できるような力も無い…」

「…力が無ければ」

「こうするしか…ないじゃないか」

「これは…」

「仕方なかったんだ…」

 

これはアルミンのセリフです。

今日は11/3。アルミンの誕生日だそうです。

なので今回はアルミンについて書きます。

 

この一連のセリフはジャン、サシャ、コニーを含めた調査兵が鎧の巨人(ライナー)を雷槍で仕留めた際のアルミンのセリフです。

このセリフが気になります。

 

まず、アルミンのセリフの途中でミカサが

「え?」と少し驚いていますよね。

 

この「え?」はマンガのテクニックでいえば

アルミンの割と長いセリフを一度区切ることで見た目的に読みやすくするためです。

また、読者が頭の中でセリフを読むときに

ここで一拍置くことでリズムを作っています。

 

そしてストーリーの文脈で見てみると

敵でありながら、かつての仲間だったライナーを殺したことに同期メンバーはとても動揺しています。

ライナー達に対して容赦のないミカサですら内心穏やかではありません。

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[第77話 彼らが見た世界 単行本19巻より]

そしてミカサは隣にいるアルミンの方に目をやり、同じく動揺しているだろうと思い

「アルミン」と一声かけ、ポンと肩に手をやります。

 

その次のコマがこれです。

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[第77話 彼らが見た世界 単行本19巻より]

 

サシャとコニーはただただ耐えきれず泣き伏せました。

そばにいたジャンも、泣きたいのを堪えて2人を叱咤します。

きっとアルミンだって大変だろうとミカサが気にかけた矢先、この長セリフです。

 

これにミカサは驚いているように見えます。

 

みんなはただ動揺するばかりなのに、アルミンだけはバンバン頭が回っている。

口も回る。

アルミンが聡いことは知っていても、まさかこの期に及んで相変わらずその調子なのかとミカサは考えたかもしれません。

 

でもアルミンも動揺していることに変わりはありません。

もしかしたら、これがアルミンの動揺の作法なのかもしれません。

 

思い出すのは単行本8巻。

 

アニを地下道に誘導することに失敗して、巨人化された直後もアルミンは逃げながら失敗を反省してます。

 

それに調査兵団の壁外調査時、襲撃した女型の巨人を「巨人化能力を持った人間」だと考え至ったのも、女型の巨人から追いつめられているときです。

 

どうやら追いつめられると頭を回すのはアルミンの癖のようです。

それは動揺を誤魔化そうとしているのか。

俺には、とにかく必死に自分の置かれている状況を理解しようとしているように見えます。

 

単行本26巻。

超大型巨人の力を使って、マーレの軍港を壊滅させたときもアルミンは

「……これが」

「君の見た…景色なんだね」

「ベルトルト…」

と言っています。

 

自分は何をしたのか。

それはどういうことか。

何故したのか。

結果どうなったのか。

他の選択肢は?

今、どんな状況なんだ?

その中で自分には何が出来て、どうするべきなのか?

 

とにかくアルミンは考えるのをやめない。

それはむしろ追いつめられれば、それだけ思考が加速する。

 

アルミンはそんな人なんだな、と思います。

 

そして気になるのはセリフの中身。

特に

「仕方なかったんだ…」

と言ったこと。

 

この、「仕方ない」というセリフはアルミンに限らず色んなキャラが作中で度々使っています。

 

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[第78話 光臨 単行本19巻より]

ベルトルトや…

 

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[第100話 宣戦布告 単行本25巻より]

エレンも。

 

この「仕方ない」には、全てにかかっています。

 

自分や相手の犯した罪。

誰かがやらなくてはいけなくなったこと。

それまでの背景や当事者の状況について

「仕方なかった」と述べています。

 

このセリフが多用されることに、俺はこの作品に込められた何らかのメッセージ性を感じとっています。

 

でも具体的にどういった意味なのかはイマイチよくわかりません。

何せ2019年11月3日現在、未だこの作品は完結していませんからね。

でも考える価値のある事柄だと思います。

今、答えがハッキリしていなくとも、考え続けていく価値があります。

 

仕方なかった。

仕方がなければ、その罪は許されるのか。

当事者はそれで納得することができるのか。

 

この作品で、このセリフが使われるときは、どれもネガティブなニュアンスを孕んでいます。

 

何も

「うん、仕方ない仕方ない。よし、じゃあ切り替えて前を向きましょう!」

とは言ってません。

 

仕方がないからと言って事実が形を変えることはありません。

遺族の無念が癒されることもなければ

手を汚した者の心が救われることもない。

罪は罪。

壁を破壊したライナーやベルトルトも、ただ、あの世の中が憎悪を抱えたまま回っていくために必要な辻褄合わせ。その順番がたまたま回ってきただけのようにも俺は見えます。

 

そんな事実を前にして、自分には何が出来るのか。

さっさと裁かれてしまえばいいのか。

 

罪を裁くために、今度は誰が手を汚しましょうか?

 

罪人の命を背負ってもらうのは誰にするか?

 

そんな途方もない問題。

 

それでもアルミンは考えるのをやめることはない。

 

きっと。

 

今日はアルミンの誕生日。

およそ誕生日に向かないしんどい話でした。

というかアルミンは生まれてきて良かったと自分に思えるのかな?

そんな未来が待ってるのかな?

 

だからこそ彼を祝福すべきだし、今後どうなってもアルミンを、エレンを、ライナーを、ベルトルトを、作中の誰だって見限りたくはないんですよね。

読者は、ただただ行く末を見届けることしかできないから。

 

アルミン、誕生日おめでとう!

 

長文お疲れ様でした。