ジャンが捧げた心臓
[第127話 終末の夜 より]
125話。
地鳴らしが発動し、イェーガー派がマーレ義勇兵を拘束した際、フロックはジャンに言いました。
「なぁジャン」
「お前は憲兵になって内地で快適に暮らしたかったんだろ?」
「そうしろよ。お前は英雄の一人なんだから」
懐かしいですね。初期のジャンが兵団に入った動機はこれでした。ですが時が経ちジャンは変わりました。
126話。
ジャンがイェーガー派を裏切った際には
「もう…あのまま耳を塞いで部屋に籠っていたかった…」
「でも…」
「それじゃあ…骨の燃えカスが俺を許してくれねぇんだよ…」
と言いました。
うんうん、これだよなぁ今のジャンは。
この姿勢が調査兵団入団以降のジャンだよな〜。
骨の燃えカスとはマルコのことです。
トロスト区奪還作戦中に戦死したジャンの友人です。
でも、引きこもったりせず目の前の問題に立ち向かうことが正しい姿勢のように思える一方で、いつまでもマルコに影響されジャンが自らを命の危険に晒し続けるのもなんだかなぁって思ってました。
…というかなんで骨の燃えカスが『許して』くれないんでしょうか?
ジャンはマルコに対して何か後ろめたいことでもしましたっけ?
マルコがジャンを庇って巨人に食われたみたいな。
このように、このセリフを額面通り受け取るのは間違いです。ですのでこの記事ではジャンにとっての『骨の燃えカス』とはどういったものなのか、探っていきます。
ジャンはマルコに背中を押される形で調査兵団を選び、地ならしが発動してパラディ島の安泰がある程度確保されても尚、ジャンの戦いは続くようです。このジャンの物語の顛末が気になっていました。
茨の道をどこまで歩いたらジャンの中のマルコが成仏してくれるのでしょう?
そして127話。
エルディアもマーレもごちゃ混ぜの蠱毒にも似たシチュー会にてジャンはマルコ殺害の首謀者であるライナーから直接マルコの死の真相と遺言を聞くことが出来ました。
「俺たちはまだ話し合ってない」と。
この遺言が地ならし阻止組の、ないしはマーレとエルディアの関係を省みることを助けます。
このシーンを見たとき不意に胸が熱くなり、これまでのジャンについて色々な点が腑に落ちました。
・なぜジャンは調査兵団を選んだのか。
・どうしてジャンはマルコの存在があそこまで無視できないものになったのか。
・なぜ地ならし後も戦うことを選ぶのか。
…
それはきっとマルコにもう一度会いたかったから…
こうは考えられないかと思ったのです。
エレンの巨人駆逐のようにずっと脳内の中心で考え続けていたというよりは、もっと片隅で、きっと本人も無自覚に亡きマルコとの再会を望んでいたのではないでしょうか?
『心の片隅で』って言い方はズルいというか、発案者に有利すぎるんです。
この言い方をされた者は使えそうな記憶を結びつけて(言われてみればそうかも…?)と考えてしまうものだからです。
そんな陳腐な占い結果みたいにならないためにこれから一つずつ確認していきます。
マルコとの再会。
もちろんマルコは既に死んでしまっているので会うことはできません。
でも、不明だった死の真相と遺言を知るということも死者との再会のひとつの形だと考えています。
死人に口なし。
誰かが死ぬとその人から発信される情報が途絶えます。
ハンジさんの心の中にいる死んでしまった仲間たちが地ならしの阻止を支持するように生者の心の中では死者は在り続けますが、それはあくまでも亡くなったその人ではありません。
しかし、生前残した遺言や死の真相というものは事実そのものであり、確かに死者から発信された情報です。
死者との再会というものは霊的な意味ではなく、死者の情報が更新されるという意味でこの記事では使います。
そう表現した方がエモいからです。
ジャンは無自覚にマルコとの再会を望んでいたとはどういうことか?
状況を整理します。
まずジャンは何故マルコとの再会が叶ったのか。
それはジャンがあのシチュー会に居合わせていたからです。
何故ジャンがシチュー会に参加していたのか。
それはハンジさんから誘われたからです。
何故ハンジさんはジャンを誘ったのか。
兵団組織は瓦解しハンジさんとは相反するイェーガー派が島内の実権を握りつつあるこの情勢では、ハンジさんはあらゆる人間が敵に思えたはずです。それでもジャンを選んだのはこれまで調査兵団として一緒に命がけで戦ってきた仲間だからです。
ジャンがハンジさんと戦ってきたのはジャンが調査兵団入団を決意したからです。
このように振り返ってみると、ジャンは大きな選択を迫られた時、結果的に亡きマルコとの再会へと導かれるように選んでいます。
マルコの死体を見つけた時にジャンは真っ先に
「誰か…」
「…誰か…」
「コイツの最期を見た奴は…」
とマルコの死の真相を知りたがっていました。この時から既に。
真相を知ることは無理そうだとは分かっている。でも叶うものなら教えてほしい。
何せ未解決でありますし、そんな思いが127話までずっとジャンの中で燻っていたと俺は考えてます。
無自覚に望んでいたとはこういうことです。
それにマルコとの再会へと選択を悉く正解できたのはジャンの計算によるものだと考えるのは現実的ではありません。
調査兵団で最前線で活動していたらマルコの死の真相に辿り着けるかもしれない、と考えながら日々を過ごしていたと受け取るのは違和感が凄まじいです。それはあくまでサブクエストであり、本命のメインクエストがあるはずです。
マルコとの再会が無自覚であるなら、エレンの巨人駆逐のようにジャンの心の中心にあったものは何なのか?
マルコへの道の第一歩となる所属兵科の選択、このときジャンは何を思って調査兵団を選んだのか?
それはマルコの言葉を思い出したからです。マルコに指揮役に向いてると言われたからです。
しかし、第21話「開門」にて新兵勧誘式が始まる直前にジャンは調査兵団志望理由を
「誰かに説得されて自分の命を懸けているわけじゃない」
とちゃんと釘を刺しています。間違いなく理由の中にマルコが関わってはいるけど、自分の人生における大事な局面で他者に判断を任せているわけじゃない。後々ジャンがハンジさんに言われることになるけど
「私の判断だ」
「君のは判断材料」
に通ずるものがあります。
指揮役に向いてるだけなら憲兵団で指揮を執られては?とも思いますが、巨人vs人類の戦いの最前線にこそ自分の能力は必要だと頭で理解してしまったのでしょう。何せジャンはとても頭が良いですから。
同じく新兵勧誘式直前のジャンの
「そして有能な奴は調査兵団になる責任があるなんて言うつもりも無いからな」
というセリフからこの思考が垣間見える気がします。
臆病者に徹するにはジャンはあまりに賢すぎた。本人はまるで臆病者であることを望んでいたようにも見えます。しかし最終的にジャンは戦うことを選びました。
巨人の恐怖を思い出しながら。
心が悲鳴を上げながら。
マルコの言葉にはそんなジャンを調査兵団に導くだけの説得力があります。その説得力とは如何なるものか考察します。
まずはそのセリフを挙げます。
[第18話 今、何をすべきか より]
「怒らずに聞いてほしいんだけど…」
「ジャンは…」
「強い人ではないから」
「弱い人の気持ちがよく理解できる」
「それでいて現状を正しく認識することに長けているから」
「今 何をすべきかが明確にわかるだろ?」
「まぁ…僕もそうだし大半の人間は弱いと言えるけどさ…」
「それと同じ目線から放たれた指示なら」
「どんなに困難であっても切実に届くと思うんだ」
大変理路整然とした明快な言葉ですが、これに説得力があるのは中身の理屈が正しいからだけではありません。それだけではジャンが釘を刺した通り『誰かに説得された』ことになります。
ジャンは自分でこの言葉を『見つけた』のです。自らの思考の末にこのマルコとの記憶に辿り着いたことがこの回想の前のジャンのモノローグで描かれています。
ただ言われただけでなく、自分の考えとマルコの主張が結びついたのです。
これが説得力の正体です。他にもまだありますけど。
これが「その意見は正しいと思うけど自分は腑に落ちない…でもこの人が言うなら」という姿勢との決定的かつ本質的な違いです。
そんな不透明な状態で他人の意見を採用して、あまつさえ「私はこの人を信じてるから…」とか言ってたら虫唾が走ります。それは信じてるのではなく、ただ思考をサボって他人に依存してるだけです。
この体験のおかげで調査兵団入団はジャンの判断でありマルコのは判断材料、と言えるのです。
それではジャンの思考とマルコの言葉はどのように結びついたのでしょう。
トロスト区奪還作戦で戦死した兵士たちの遺体を火葬してる最中のことです。巨人に襲撃される惨状を身をもって思い知り、兵士を選んだことを後悔しながら、ジャンの中のエレンはそれでも巨人と戦う意義を説いています。
「お前は戦術の発達を放棄してまで」
「大人しく巨人の飯になりたいのか?」
それは正しい意見に思えますが、正しさだけでは人は動きません。ジャンもこのセリフと対立する言葉を探します。
[第18話 今、何をすべきか]
「てめぇに教えてもらわなくてもわかってんだよ」
「戦わなきゃいけねぇってことぐらい…」
「でも…わかっていてもてめぇみたいな馬鹿にはなれねぇ…」
「誰しもお前みたいに…」
「強くないんだ…」
ここです。
この「自分は強くない」という思考から続くマルコの言葉の「強い人ではないから」に繋がるんです。
ここがジャンの思考とマルコの言葉の接合部です。
俺は強くない、と考えた矢先
強くない人だからこそ戦いには必要なんだと過去の思い出に諭されたらもう無視はできません。
強くないというワードから関連してマルコの言葉を思い出すというプロセスはとてもリアル、というか、人が特定の記憶を思い出すという現象はどのように成立するかという作者の鋭い洞察が伺えます。
そしてその洞察はドラマに組み込まれます。
「強い人ではないから」のコマの一つ前ではジャンの目線のカットがコマ割りされています。これはジャン本人もまさかこのタイミングでマルコの言葉を思い出すとは思わなかった、というビックリした顔だと思います。
日頃の洞察で得たものを作品の中にここまで鮮やかに落とし込む、というのは作者の漫画家としての技の妙、というか…プロだなって感動しました。
このマンガを読んで意識するようになったんですが確かに、自分の意図しないタイミングで、ある事をきっかけに思い出が蘇ることってありますよね。
他にもプロの描く漫画として注目すべき点。
それは他でもないマルコが言うことだから説得力を持つ、という点です。
マルコはまず仲間たちから指揮役に向いてると評価されます。加えてそれを評価しているのはエレン、サシャ、コニー、そしてジャンのいわゆる104期生のいつメンです。
[第18話 今、何をすべきか より]
ここで油断したら見落としそうになるのが、この場の彼ら全員が上位10位以内で訓練兵を卒業するエリート集団だという点です。そのエリートたちが評するのだからマルコが指揮役に向いてるという評価にはこれ以上ない信頼があります。
余談ですが、一瞬「メンバーの成績偏りすぎじゃね?」って思ったんですが、現実でも学校とかでは自然に成績の似通った者たちでグループを作ってたりしますよね。ならばエリートたちが集まって打ち解けてるのは問題ないし、むしろどこか生々しく感じました。
そして、『その』マルコが指揮役に向いてると評価するのがジャン。という構図になっています、このシーンは。
マルコの言葉には、このような下ごしらえがあったのです。
これが説得力その2です。
ストーリーを引っ張る必要のあるこのマルコの言葉。ジャンを、というかある1人の人間の人生を動かすだけの言葉というデリケートなものを扱う際に、作者はこれだけの準備をすべきだと判断したのだと思います。
すげぇ!
俺自身、初見ではサラッと流したこの訓練後のシーンですがマルコの言葉を考察する際に注意深く読み返して、この仕掛けを見つけたときは驚きました。本当にこの漫画は底が見えない…
加えてもう一点。
実はマルコはエレンたちが去ってから、ジャンと2人きりになってから
「僕はジャンの方が指揮役に向いてると思うな」
と話し始めています。2人きりになるのは一つ前のページで確認できます。
[第18話 今、何をすべきか より]
おそらくこれは、気の利くマルコのことだから、あの場で自分の意見を言えばジャンが悪目立ちすることを避ける意味があったと思います。まあ単純に言うタイミングなかったっぽいですけど。タイミングがあったとしてもマルコなら言わない気がします。
そのせいで以降の会話はジャンとマルコしか知りません。
エレンたちはジャンがマルコに評価されたこともその理由も知りません。
そしてマルコは死んでしまいました。
この世でこの会話を覚えているのはジャン1人です。
もしジャンがこの会話を忘れて憲兵を選んだら、この会話の中のマルコの思いは消えてしまう。
ジャンが調査兵団を決意するとき、そんな意味も考えていた、かもしれません。
まとめると、マルコの言葉の説得力というものには
・まず中身がいい。
・ジャンが思考の末この言葉と結びついた。
・エリートたちが評価するマルコに評価された。
・会話を知ってるのは最早ジャンだけ。
…という二郎ラーメンもビックリの全乗せマシマシの意味が込められていたのです。
それらのおかけで臆病者でいたかったジャンの心は拮抗する巨人の恐怖を僅かに上回り戦うことを選びました。
進撃の巨人という作品は『何かを選択すること』がテーマだと誰かが言ってましたが、その凄みの一角を見た気がします。
そしてその選択の結果、後々ジャンはマルコに再会することができた…
まるでマルコの遺志に導かれるように。
実際、マルコの死の真相というのはとても悲惨なものでした。
それを聞かされてジャンは怒りの感情でもっと苦しむことになった。思わずライナーの顔面をグチャグチャにしてしまうほどに。
でも、それでも
「マルコはどうやって死んだかわからない」というモヤモヤから生じる積年の苦しみだけからは解放されたはずです。
それはジャンの物語の中での到達点のひとつであり、時を越えて友人に遺言が届くというマルコ(もしくはジャンと読者の心の中のマルコ)への鎮魂歌であると同時に、自分の意思で茨の道を選んだジャンに対するある種の報酬であると考えてます。
「地獄を選び真実に辿り着く」という点でエレンの地下室と共通してますね。実は違う車線で似たような道を走っていたのがジャンでした。
真実を求める意思こそ、その名の通り『調査』兵団の本懐であり、結果的にその矜恃を則ったジャンもまた調査兵だったのです。
こんなとんでもないドラマを見せつけられて、俺は一体どうすればいいんですか?(汗)
受け取ったこのクソデカ感情を腹に抱えたままこれから暮らしていかにゃならんというのは
…大変光栄に思いますε-(´∀`; )
そしてマルコの言葉は実際正しかったと後々のストーリーで証明しています。
それは単行本4巻から遥か飛んで20巻。
ウォール・マリア最終奪還作戦にて、超大型巨人との戦闘時にジャンの強みが輝きます。
それは挫けたアルミンをジャンが支えたところです。戦況が悪化したときアルミンは堪らずジャンに指揮役を代わってもらおうとします。
[第79話 完全試合 より]
始めはジャンも驚いたけど、決して役目を投げ出したアルミンを軽蔑したり薄っぺらい叱咤激励をしたり、狼狽え取り乱したりはしませんでした。
それはマルコの言う通りジャンは
「弱い人の気持ちがよく理解できる」からです。人は時に堪らず弱音を吐いてしまうのことを知っているからです。ジャンにとってはアルミンの提案は全然許容範囲内なんです。
だからすぐ巨人エレンにメンバー全員を乗せて川に移動して身を隠す指示が出来たし
「アルミン…俺は状況は読めるが」
「この場を打開できるような策は何も浮かばねぇ…」
「最終的にはお前に頼るからな」
とめちゃめちゃ冷静かつ的確に状況判断することができたのです。
アルミンが打開策を思いつくまでの中継ぎという一見地味で作品的に盛り上がらない場面ですが、とても重要です。もしあの場にジャンがいなかったらアルミンは、エレンたちはどうなってたんでしょう?
マルコはジャンを弱い人間のことを理解できる人だと言ってましたが、調査兵団に入ってからその能力は発揮されるものなんだろうか?って思ってました。
だって、調査兵団を選ぶ時点でもうそれだけでめっちゃ根性あるのでジャンの周りにいるのは選りすぐりの「強い人」たちだらけなんじゃないか?と思ったからです。
でもそうじゃなかった。
実際はアルミンのように優秀な人間でも、時には挫けて弱ってしまうこともある。
いや、もしかしたら本当は「強い人」なんかいなくて、みんな弱い心を隠したり誤魔化しながら強がっているのかもしれない。
でも状況が変わればそんな無理も通用しなくなるというのは各々の日々を過ごす多くの人が共感してくれると思います。
普段頑張ってる人、みんなを引っ張っている人、頼りにされてる人が挫折して苦しむとき、ジャンはその人の抱える荷物を少し下ろすことができます。
マルコのいう「弱い人間」とは「時に弱ってしまう人間」も含まれるのではないかと思いました。
ジャンは調査兵となり、人類の為には自分の能力が必要だと判断して最前線で命懸けで戦うことを選びました。理屈の上ではジャンは人類の為に働いているように見えます。
しかし、その原動力は何でしょう?
ジャンは人類の衰退を憂う愛国心を以って戦っているのでしょうか?それは違います。
それはマルコの思い出をきっかけに、ジャンは自分の『生き方』を見つけた。
骨の燃えカスにがっかりされないような『生き方』を。
そのように俺は見えます。
死にたいから調査兵団に入って命を危険に晒すんじゃないです。
ジャンの見つけた『生き方』とは偶々、命を懸けねばならないようなものだった。
強く言えば、ジャンは命懸けで生きてるんです。
死なないことと、生きるということ。
生きてる状態と、死んでない状態。
一見同じ意味に思えるこのペアの間にはどのような摩擦と矛盾があるのでしょうか。
兵団組織共通の敬礼。右拳を胸にあてるポーズにはキース教官曰く「公に心臓を捧げる決意」を示す意味があるそうです。
この手の慣習は徐々に意味が抜け落ち形骸化することがよくありますが、ジャンは一体何に心臓を捧げたのか。
調査兵団入団を決意したあの瞬間、ジャンは誰とも知れない骨の燃えカスを右手でギュッと握りしめた時、自然とその手は自分の心臓の近くにあります。
[第18話 今、何をすべきか より]
ジャンは、骨の燃えカスに、亡きマルコの言葉に、そして自分で見つけた『生き方』に心臓を捧げたのだ。
というのが、本記事の終着点です。
そして何故、骨の燃えカスはジャンを許してくれないのか?
もう十分に戦ったんじゃないのか?
え?もっと命を懸けないといけないのか?
それは友人を奪い去ったこの世の理不尽との因縁から生じる呪いといったような後ろめたい絶望的な意味であるとは、俺は思えないのです。
ジャンの心に在り続ける骨の燃えカスとはマルコのことではあるけど、本記事でも慎重に取り扱ったようにそれはマルコ本人ではありません。
では『骨の燃えカス』とは一体何者なのか?
その正体は『亡き友人との思い出』という帳の奥に隠された自分自身である。
見つけた『生き方』を望む自分である。
こう思えてならないのです。
だから新兵勧誘式にて調査兵団とは違う道を選べる最後の局面で、巨人への恐怖と対立してジャンが葛藤するのは、マルコのことではなく、自分との向き合い方なんじゃないでしょうか。
「頼むから…これ以上」
「自分のことを嫌いにさせないでくれ…」
というように。
この時からジャンは「自分を嫌いにならずに済むか」という問題に巨人への恐怖に匹敵するほどの意味を見出しています。
これも『骨の燃えカス』がジャン自身でもあるならば、そんな自分が脳内会議にて発言権を得たためだと考えられます。
このように考えると、骨の燃えカスはジャンのことをおそらく一生、本当に死ぬまで許してはくれません。
それはネガティブな意味ではなく、それが自分の人生を生きるというものだから。
自分とは、本当の意味で一生付き合っていくのだから。
ならば、なるべくなら良い付き合いをしてみたいものです。
世界は残酷だけれど、そんな中で見つけたジャンの『生き方』を俺は祝福したくなります。
死にたくはないけど、生きてもみたいのです。
この世に生まれたのだから。
すべてが片付いてセントラルの一等地で昼間から上等な酒をかっくらう際には、ジャンには是非とも友人の思い出と共に乾杯してほしいものです。
長文お疲れ様でした。