進撃の巨人ししゃも的考察ブログ

既読者向けです。進撃の巨人を読んだ感想をまとめていきます。Twitter:@shisyamosk

神演出!なぜ第1話の巨人は顔を隠すのか?

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[第1話 二千年後の君へ 単行本1巻より]

 

こんにちは!進撃の巨人です!

でっかい巨人が人を食べるマンガです!

 

でも更にでっかい壁が巨人から守ってくれてるので大丈夫です!

 

でもでも更に壁よりでっかい超大型巨人が出てきて壁を蹴破りました!

さぁどうする?!

 

これが進撃の巨人の連載用のシナリオです。

この記事を読んでるあなたが進撃の巨人の連載を任され、このシナリオを渡されたとして、机に向かい、目の前の真っ白な原稿用紙にどのような第1話を描きますか?

 

伝えたい情報はたくさんあります。

中でも読者にインパクトを与えるのは

超大型巨人の存在と、

もうひとつが、人を食べる巨人の怖さ、だと思います。

 

自分の作品の面白さを伝えるためにどのように描くのか?

どのように魅せるのか?

…と何かしら仕掛けを捻ることを演出と言ったりします。

 

じゃあ実際の第1話の演出とは?

 

これが今回のテーマです。

 

第1話において、個人的に素晴らしいと思ってる演出が本記事のタイトルにもあるように

 

「巨人の顔を隠した」

 

ことです。

超大型巨人以外は。

 

第1話を振り返ってみると、通常の巨人が登場するシーンは3回。

 

・序盤の巨大樹の森で調査兵団と戦うツルッパゲの巨人。

・ハンネスがエレンに説明してる壁の補強作業中に見かけた巨人。

・最後のページの破壊された壁の扉に集まる複数の巨人。

 

この巨人たちはみんな俯いていたり、背中を見せていたり、どれもが顔を隠しています。

 

巨人が登場するマンガなのに、その巨人の顔を隠す?

かなり変わったことをやっています。

 

俺だったら

「巨人が人を食べるマンガでしょ?

だったらさっさと人が食われるシーン描くべ!」

ってなるんですけど、このマンガはそれをしなかった。

 

なぜか?

 

理由は超大型巨人がいるから。

 

超大型巨人を第1話の主役にしたんです。

作品の主役はエレンだけど

第1話の主役は超大型巨人です。

 

おそらくは進撃の巨人といったらコレ!みたいなメインビジュアル的な役割を持たせるためもあると思います。

進撃の巨人?ああ、あの人体模型みたいなアレ?みたいな。

俺も単行本1巻表紙の超大型巨人の顔に惹かれてこのマンガを読み始めたので、その効果はバッチリです。

 

それに当分は超大型巨人が物語の中心にいるからでもあると思います。

当時はこの超大型巨人とやらがラスボスで、ずっとこいつとエレンたちが戦っていくんだろうなぁ、と思ってました。

まあ、そんなことなかったんですけど。

 

ともあれ、主役が超大型巨人であるために、その他の巨人は存在だけ匂わせつつ、一旦脇に置いておく、というのが第1話のとった作戦です。

というか第1話では「巨人は人を食べる」という情報すら切ってます。なんとなく「巨人って人間の敵なんだな」って雰囲気でやってます。

読み返すまで気づかなかった…

 

今回はとりあえず超大型巨人の顔だけ覚えといてくださいね、ってかんじですね。

 

第1話の主役は超大型巨人。

そう考えてみると第1話のシーンは全て

「超大型巨人襲来」のためのお膳立て、のようにも見えてきます。

そのトドメはアルミンの

「100年 壁が壊されなかったからといって今日壊されない保証なんかどこにもないのに…」

ってセリフですね。

 

言わんこっちゃない。

 

この「超大型巨人襲来」で特徴的なのは

前触れが一切ないことです。本当にある日突然、いきなり現れます。

当人たちは全く予想のつかない大災害だった。

この現象をマンガではお膳立てしてるから面白いですね。

作中の人物にとっては何の前触れのないことだけど読者はこれから何が起こるか知っている。

 

だって冒頭でやってたから。笑

 

先にゴールを見せないと何のお膳立てなのかわかりませんからね。

 

第1話は超大型巨人が主役。

じゃあ人を食べる巨人は?

彼らは第2話の主役になってもらってます。

 

「おそろしい巨人が人を食べる」

 

これを盛り上げるために、この作品はかなり入念な準備をしています。

「超大型巨人襲来」の時と同じように。

 

その準備の1つが巨人の顔を隠したこと。

最初期の巨人は得体の知れない存在として描かれます。

顔を隠すことで巨人が「得体の知れない何か」になるんです。

こいつらは何者なのか、どこから来たのか、どんな奴なのか、一切の素性は分からないけど、とりあえずその巨人から身を守るために50mくらいの壁が必要らしい。

そいつらが破られた壁の穴からゾロゾロ入ってくるんです。こええよ!

 

そしてもうひとつの準備が第1話の調査兵団のくだり。

第1話序盤で巨大樹の森で調査兵団が立体起動を駆使して巨人にヒロイックに切りかかるところでシーンが切り替わり、次のシーンでは負けてボロボロになって町に帰ってきます。

何の成果も得られませんでしたよね。

どうやって負けたのかは描きません。

分かるのは悲惨な結果だけ。

その方が不気味です。

これで読者は「巨人というのは調査兵団とかいう戦闘集団をコテンパンにしてしまうような奴なんだ」と認識します。

そんな奴らが破られた壁の穴からゾロゾロ入ってくるんです。こええよ!

 

以上のような準備を、お膳立てを経て、満を辞して第2話で巨人がやってきます。

その作中で初めて顔を披露した巨人が例のこいつです。

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[第2話 その日 単行本1巻より]

この巨人の意味わからんくらい不気味な顔が個人的な第2話の瞬間最大風速ですね。

そんでこんな奴が人をパキパキ食べ始めますからね。

この瞬間まで、巨人が人を食べるっていう情報は本編では伏せてます。

まあでも大体の読者は読む前から風の噂で耳にするんだろうけど。

 

このシーンのせいで、巨人って言ったらこいつ!みたいに印象付けられます。

人を襲う巨人はこんな奴ばっかなんだ、みたいな。

これが巨人というものなのか!みたいな。

初めて見た生き物を親だと思ってしまう雛の刷り込みみたいですね。

初登場のインパクトってこんなに大事なんですね。

そのインパクトのために物凄く計算されている第1話、第2話だな、って思いました。

 

このダイナ巨人の御尊顔を叩きつけるために、

ダイナ巨人の顔を「巨人の顔、初公開」にするために、これまで巨人の顔を隠し通してきたんです。史上最低な第一印象を記録するために。

 

まとめると第1話の巨人がずっと顔を隠している理由は、一つは第1話は超大型巨人が主役であり、超大型巨人のためのストーリーであるから、であって、

もう一つはこの第2話の巨人の不気味な顔を披露するための準備であったから、

というのが今回の考察です。

 

なんというか、手持ちのカードの切り方が病的にうまいんですよね。進撃の巨人って。

 

この、ヤバいこと起こるぞ〜って溜めて溜めて溜めてドーン!っていう手口は今後この作品で何回も使われます。

最近だと「地ならし」がそうですね。

 

それでは今回はここまで。

長文お疲れ様でした。