進撃の巨人ししゃも的考察ブログ

既読者向けです。進撃の巨人を読んだ感想をまとめていきます。Twitter:@shisyamosk

マルロは自分を生きた。

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[第31話 微笑み 単行本8巻より]

 

マルロってキャラ覚えてます?

だらしない憲兵団を変えたがっていた人。

 

フルネームで「マルロ・フロイデンベルク」というそうですね。調べるまで知らなかった。

 

簡単に紹介すると、憲兵団所属、後に調査兵団編入、そしてウォール・マリア最終奪還作戦に参加しそこで戦死した人です。

 

ふとマルロのことが気になってきたので彼について書きます。

上の画像は8巻の冒頭のアニとマルロの問答のラスト。このやりとりって物語的に何で必要だったんだろ?って思ってました。

タイミング的にはvs女型の巨人の最中にやってるんですよね。その割には女型の巨人捕獲時にはマルロ達憲兵団新兵はただ動揺していただけで大して物語に関わってこない…

多分その時はアニのキャラの掘り下げくらいの役割だったのかな?あの問答のシーンは。ついでに憲兵団も紹介しておくか的な。

 

このシーンは8巻を読んでた当時は読者に向けた憲兵団の社会見学くらいにしか思ってなかったんですけど、今振り返ると、実は、19〜20巻辺りのウォール・マリア最終奪還作戦編とセットになってるんだなって気づきました。


この8巻のシーンは「エルヴィンの罪の中身」だと認識しています。

獣の巨人を討伐するために新兵を囮にしたアレですね。あの特攻にマルロも参加し、そして石礫を浴びて戦死します。

あの作戦を決行したというエルヴィンの罪の話。

 

進撃の巨人の一貫した道理として何かを成し遂げるためには必ず大切な何かを犠牲にせざるを得なかったけど、ウォールマリア編ではとうとう「未来ある若者」を犠牲にしてしまった…ってのがあの新兵特攻の酷さであって…

 

守るべき若者を犠牲にする…この禁忌に触るかんじがなんとも言えずゾクゾクします。


でも物語的にはただ「新兵特攻させます」じゃ物足りない、言葉だけなので。強い言葉だけ使ってたら「絶望という娯楽を読者に提供します」っていう商人根性が透けて見えてしまう。作者がそう思ったのかは知らないけど、ただ酷いことさせるだけじゃなくて、ちゃんとそのディテールに拘るのがこの作品の魅力ですね。


…という前提で、この憲兵団旗のコマが何を表しているかというと、これは

 

「マルロが将来、憲兵団の悪癖を変えられたかもしれないという可能性」

 

なんです。

マルロ独自の視点で何か大切なことに気づきかけてるシーン。

エルヴィン、というか調査兵団はこの可能性を摘み取った、という事実に繋がる。ひでえ!


新兵を犠牲にした。

…では新兵の中の何を?

大切なのは命だけじゃない。

 

命は大切だ。それが犠牲になるのは悲しいことだ。それは当然です。でも当然なことばかり主張されても読者は頷くしかなくなる。うん悲しいことだよねって頷かざるを得なくなり、なんか物語に乗れない。でもマルロの可能性を指摘することで、命以外の何を失ったのか実感してしまう。

 

誰かが死ぬということがどういうことか。

 

そのために8巻のシーンは読者にとって必要だったんだなって納得してます。


これが「エルヴィンの罪の中身」です。

エルヴィン本人の苦悩の内臓です。


じゃあなんでマルロは調査兵団編入してんだ、憲兵団を変える理想はどこいった??ってのが今回の焦点です。


ここが本当おもしろいんですけど

マルロの「憲兵団を変えたい」という理想は調査兵団が先に叶えちゃってますよね、革命編で(笑)

一応マルロ本人は途中から合流する形で参加できてはいるけど…


速攻で人生の目標が無くなっちゃったんです。

その事実をマルロはどう受け止めたのか?


素直に喜んだのか?

 

不完全燃焼だったのか?

 

俺的には後者だと思ってます。

何故なら奪還作戦に参加してるから。


それをヒッチは止めましたね。

俺もヒッチに大賛成だけど、残念ながらそれじゃあマルロの魂は救われない。


自分の情熱を養ってくれるのは最早調査兵団くらいしか残ってない、と考えたんじゃないでしょうか。


マルロは誰が見ても前線に立つような奴じゃない。

スーパー内政向きの人間です。

むしろそっちのが全然輝ける可能性はあった。


でもマルロは「前線に立とうとする奴」だった。


それは調査兵団が扇動したからかもしれない。

ならばマルロも結局、大きな流れに逆らえない普通の人だった。


ただその「大きな流れ」というものが

マルロ的には憲兵団入団時には「気に入らないもの」で

調査兵団編入時にはマルロが「気に入るもの」だっただけの違いで…


自分の能力と性分が噛み合ってない人間の、傍から見た悲しさ、もどかしさ。


でも結局はマルロは自分の道を自分で選んだんだな、と思う。

それがたとえ自分の能力を見誤っていたとしても。

たとえ本人の気づかない所でもっと輝ける可能性が他にあったとしても。

それでもマルロはウォール・マリア最終奪還作戦に参加した。

 

これが自分の道を自分で選ぶというものなのかもしれません。


自分のことを他人に決めてもらうのが正しいこととは思えないけど、かと言って自分の判断が正しいとも限らない…

どっちもどっちだよ。


そんなことをマルロの半生が物語っているような気がしました。

 

こんな感じですかね。

あまりに悲惨な最期を遂げ、それでいてとても人間臭く、つい活躍を応援したくなるようなキャラクターだったので、なんというか、自分の中のマルロが上手いこと成仏してくれないかなって思って、彼を振り返ってみました。

 

長文お疲れ様でした。